戦後、靖国神社を巡る状況を後退させた首相が3人いる。
1人は三木武夫首相。
彼は吉田茂首相以来、
首相の靖国神社参拝が長年にわたって定着していた中で、
昭和50年に初めて憲法違反ではないかと見当外れな批判が出て
「政治問題」化した時、自らの参拝を「私的な」参拝であると逃げた。
ここから首相の靖国神社参拝を巡る混乱が始まった。
2人目は中曽根康弘首相。
昭和53年にいわゆる「A級戦犯」が合祀されてからも、
大平正芳首相・鈴木善幸首相と波乱なく参拝を続けてきていた。
にも拘らず、中国は国内の権力闘争に靖国神社を利用し、
昭和60年になって突如、首相の参拝を批判して来た。
合祀後、7年が経過し、既に首相の参拝は20回も重ねられ、
その間、中国は何ら問題視していないのだ。
だから、当時の中曽根首相は中国の「出し遅れの証文」のような
抗議を断固、一蹴すべきだった。
だが彼は全面屈服して、参拝を中断した。
以来、歴代首相の参拝は、
平成8年に橋本龍太郎首相が自分の誕生日に1回参拝しただけ。
それを復活したのは、小泉純一郎首相だった。
彼は、中韓両国の理不尽かつ猛烈な外圧に屈することなく、
平成13年から18年まで毎年、参拝を続けた。
しかし、それを再び中断したのが、3人目の安倍晋三首相だ。
第1次安倍政権発足以来、
再び国政のトップリーダーが近隣諸国の顔色を窺って、
自国の戦没者に対し、
敬虔な感謝と尊敬の念を素直に表すことが出来ない、
という異常な局面に逆戻りしてしまった。
従って、近年の首相参拝の再中断という、
靖国神社に祀られる英霊に対し、まことに申し訳ない状況を作った
直接の責任は、他ならぬ安倍首相にあった。
その安倍首相が今日、第2次政権発足から1年という区切りの日に、
靖国神社を参拝された。
これは何より、自ら招いた靖国神社を巡る異常状況を、
自らの責任で解消するための第1歩を踏み出したことを
意味するだろう。
勿論、春秋の例大祭や終戦記念日など、
神社や国民にとって大切な意味を持つ日に参拝せず、
自らの政権の節目という「私的な」日に参拝したことには、
首を傾げる向きもあるはずだ。
或いは、内閣への支持率低下を挽回するためのパフォーマンスだとか、
保守層の不満に対するガス抜きなどとの疑念も抱かれかねないだろう。
しかし、全てはこれからに懸かっている。
来年もきちんと参拝を継続し、
靖国神社への首相の参拝を定着させる方向に持って行くことが
出来るか、それともかつての橋本首相のように
一回限りの「私的な」パフォーマンスに終わってしまうか。
今回の参拝の意義は、来年の首相の行動を見届けて判断すべきだろう。
さしあたり、4月の春の例大祭に今年のように
真榊の奉納という形でお茶を濁すのか、
それともご本人がちゃんとお参りされるのかに注目したい。
なお、これまで「保守」系と見られている論者の中に
「今、首相が靖国神社参拝を強行すれば、
中国や韓国が待ってましたとばかりに『被害者』を演じることだろう」
「個人として溜飲を下げたところで、
国益に適わなければ本末転倒でしかない」
(八木秀次氏『正論』平成25年12月号)などと、
懸命に首相の靖国神社参拝の足を引っ張る者がいた。
彼らは、この度の安倍首相の靖国神社参拝「強行」を
「本末転倒」と非難するのか。
それとも、掌を返して讚美するのだろうか。